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 日本のトリマーのハサミの技術は世界一? 

 

ホームページ見ていいたら、うちの先生が「日本のハサミの技術は世界一だ」と言っている。日本のハサミに優る技術は他にないし、こういう技術を持っていれば、世界どこへいっても、負けないみたいなことを述べている方がいました。これに類した意見がたくさんありましたし、そう信じている方がかなりいるようなので、ちょっとこれを書く気になりました。
 
そんなに便利なものが日本にあるならば、私も若いうちに身につけておばよかったぁと思ってしまいました。
 
でも、「世界一のハサミの技術」って何を意味するのでしょうか。よく考えてみたらどういうことなのか、私はさっぱり想像できません。
 
その内容がどうであれ、この話をアメリカのグルーマーに話してみたら、どう反応するか想像してみました。
 
「へぇー、そぉ。それはすごいね」とは言わないと思います。

「Why do you say that?」---どうしてそう言うの。そう言う根拠は何?

「So what?」----それが本当だとして、それがどうしたの? あなたにとってそれがどんな意味を持つの?
 
日本のトリマーのハサミの技術は世界一と述べた先生はこの二つの質問に答えてあげることができるのかしらと思ってしまいました。もしかしたら、喜ばせてあげよう、自信を持たせてあげようと思ってそう述べたのかもしれません。
 
自信のあることは悪くないことですけど、日本人の美徳 - 謙虚さを失ったり、すでに世界のトップで進歩の余地がもうなくなってしまうのでは少しもったいないです。
 
日本のトリミングやハサミの技術と欧米の技術を比べて、どちらが優れているのかは私はあまり興味ありません。日本でも欧米でもどこの国にもうまい人もいれば、そうとも言えない人もいるし、技術のよさや腕のよさは人による違いはあっても、日本人であったらだれでも利用できる便利な技術、世界一の技術が日本のどこかにすでにあるとは考えにくいです。
 
国籍や人種と技術のうまさはあまり関係ないように思います。
 
もし、それを言いたいなら、日本と欧米の同じぐらいのレベルの実力ある者幾人かでテストし、それぞれの仕事の出来栄えを比較する必要があります。
 
しかし、それでも比べるのは簡単ではないし、その国のトリミング技術がどんなレベルかなんてとてもあいまいでめったなことで言えることではありません。
 
トリミングの世界で日本式のハサミの技術がもしも世界でもっとも優れているとしたら、トリミングよりももっと大きく、古い歴史があり、同じハサミをよく使う日本の理容美容の世界でも同じことが言われているはずです。美容の世界では日本はけっして悪くないけど、ヨーロッパがすごいと一般に言われていますし、あの世界で、すぐ名前が浮かぶ有名な方はほとんどヨーロッパの方ですね。
 
実は私とても珍しい体験をしました。

 もう十数年も前のことになりますから、遠い昔の話として聞いてほしいです。当時雑誌でも紹介されたりしましたが、今では覚えている人はほとんどいませんから、こういう話をしても、もう許してもらえると思います。

日本のトリミング業界で技術的にトップクラスの人達と、世界各国のトップクラスの人達がワザを競う場に、私は目の前で立ち会ったことがあります。
 
国際グルーミング・コンテストでは一番歴史が長く老舗的な存在で、インターグルームというコンテストがあってニューヨークで行われています。多くの国から、各国の競技会をいくつも勝ち抜いてきた優秀なトリマーの方が参加しています。
 
現在はヨーロッパで行われているユーログルームというのができて、ヨーロッパ勢でアメリカまで来る方が少なくなって、前ほどではなくなってしまいましたが、十年ぐらい前までは一流ホテルの広いデラックスなコンベンションホールで行われ、とても盛大で華やかな国際イベントでした。今でも華やかは変わりません。
 
現在は違う方が主催していますけど、インターグルームを始められた方で当時主催者であったシャーリー・カールストンさんに、トリマーがたくさんいる日本から、日本を代表するトリマーを連れて来てほしいと私は頼まれたことがあるのです。
 
トリマーに影響力がある大きな団体が日本にいくつもあるのに、カールストンさんがただのペットグルーマーにすぎない私に頼んだいきさつを話すと長くなりますからここでは書きません。
 
彼女に頼まれたので、私のあらゆるネットワークを使って探し出し参加者を募りました。その当時日本のとても優秀な人達が集まってくれました。
 
ある愛犬団体の審査員もされている長年トリミングの経験のある方、トリミング競技会でプードルで日本で一位になられた方。非常に高いランクのライセンスをもっておられ賞を幾度もとったことのあるインストラクター、ドッグショーで長年活躍されているショーハンドラーの方など、腕も経験も充分に備わった、日本を代表するという言葉にふさわしい人達が集まりました。
 
私は国籍が違いますし、この方達を世話するだけで忙しくて実際の競技には参加しませんでした。しかし日本代表団Groom-Team Japanというチームを作って参加し、世話役であり言葉の関係で一応日本チームのキャプテンを務めさせていただきました。
 
それから、日本のトリミング競技会の審査員もされている方がおりましたので、主催者に頼んでその方にトリミング競技だけでなく、審査にも参加させてもらいました。
 
審査の基準といって国によっても違いますし、こういう国際大会の審査をするのは初めてでしたので、事前に他の審査員の方々に尋ねて審査基準がどうなっているのかを調べたり、入賞者選考の最終ミーティングまで審査員に私も付添って出席しました。国際グルーミング・コンテストのジャッジングを内部に入って詳しく調べたのは日本人では私が初めてかもしれません。
 
いろいろな国の審査員と話して分ったことは、みなさんとても公正に審査しようと努力していることでした。国によって審査のやり方も考え方も微妙にちがうけどそのコンテストのジャッジ委員会で決めた基準で評価し、競技の入賞を決めておられた、自分の国のやり方に関わらずとてもフェアな人達であるということを言いたいです。
 
それでグルームチーム・ジャパンの成績はどうだったのかを話さなければなりません。
 
みなさん場数を踏んだ経験豊かな方でしたから、余裕をもってやれば見事な仕事をする方ばかりだったと思うのですけど、残念ながらあまりふるいませんでした。
 
日本の競技されている皆さんが時間不足ぎみなので、他のいっしょに競技している人達や審査員まで心配してそばまで来てくれて、いろいろ親切にアドバイスしてくれたのですけれど、どなたも持てる力を十分発揮するまでゆきませんでした。
 
成績があまりふるわなかった理由をここでは書けませんが、日本もなかなかよくやるという印象を与えることができなくて少し残念でした。でもそんなことはたいして重要なことではありません。こういう体験を皆さんいろいろな形で生かして下さっているのではないかと思います。
 
幾度かコンテストに出た日本の人達を見ただけで、日本のトリマーのハサミの技術は世界の中でどうのと、ここで述べたいのではありません。
 
単純な道具、ハサミを使うテクニックに日本も他の国も大きな違いがあるはずがありません。しいて違いを言うならば、技術の違いよりも「限られた時間の中でできる仕事の成果や質」に違いが出ることはあります。
 
大会で決められた以上の時間、普通以上にもっと多く時間をかけて見事な仕事ができたとしても、世界の舞台でそれを実力として認めてもらうことは難しいです。これは国際競技でも、時間厳守が大切なペットサロンの仕事でも変わりないと思います。
 
他の国のトリマーの皆さんが「日本のトリマーのハサミの技術は世界一」と言ってくれるなら、素直に喜び、大いに自慢してもいい話です。

 でも、腕の優れたトリマーは各国から毎年次々と出てきます。技術だけではないすばらしいトリマーは日本はもちろん、世界中にもたくさんいると思っていた方が間違いないと思います。

こういう話よりも、「ペットトリマーにとって優れたハサミの技術とは具体的にどういうことなのか?」とか「ペットトリマーとしてどんな技術をもったら、私の行きたいところにゆけるのかしら?」

この仕事をやっているなら、まずはこういう質問を自分に問いかけて欲しいです。

そうしたら世界一とまでなれなくても、本当に役に立ち満足できる「自分にとっていい技術」やトリマーの仕事を長く続けられる自分のための技術が何かが、よりはっきりしてくるように思います。

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